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技術開発のブレイクスルー、会社の信頼度アップをも生む「スマート保安実証支援事業費補助金」の力

IT技術の進化に伴い、さまざまな分野でデジタル化が加速しています。しかし保安分野は長く巡視点検が基本とされ、人の目・手に拠る管理からの脱却が課題でした。
その状況に風穴を開け、保安分野の効率化・高度化への牽引が期待されるのが、「スマート保安実証支援事業費補助金」です。高度な保安業務のノウハウを持ちながらも、費用の点で新規性・革新性のある技術開発に踏み込めなかった企業や自治体が、この補助金との出会いで得たもの。それは技術開発のブレイクスルーに留まらず、企業の信頼度アップをも生み出し、次のステージへの大きな足掛かりとなっています。

●水力発電設備の3Dスキャンによる点検業務の効率化と高度化
「秋田県」

秋田県内16か所の水力発電所による電気事業と、秋田港湾地区等の企業を対象とした工業用水道事業を行う秋田県産業労働部公営企業課・企業施設チーム(所在地:秋田県秋田市)は、補助金を利用し、3Dスキャン技術の活用による水圧鉄管等の健全性評価の実証を行いました。

人手と外部委託に依存する点検業務

水力発電所の設備は、電気事業法第42条の規定に基づく自主保安規程により、定期的な点検が義務付けられています。このため秋田県では、水圧鉄管について3年に1回の周期で内部点検を実施、健全性を確認しています。

しかし、この点検業務は従来、人の手に大きく依存していました。秋田県内の水圧鉄管や導水路は管内径40cm~1.8m、最長4.5kmに及ぶ長距離設備であり、従来はこの内部を作業員が歩きながら、ひび割れや摩耗、発錆といった劣化状況を目視で確認し、手作業で計測・記録していました。さらに土木職員7名という限られた体制であったため、これらの点検は外部コンサルタントへの委託に依存しており、1発電所あたり3,000万円規模のコストと約1か月の作業期間を要するなど、運用面での負担も大きい状況でした。定期点検ごとに行う抜水で1か月間発電が行えなくなる点も課題で、人的リソースが少ない中、設備を維持管理していくためには、点検業務の効率化と高度化が不可欠となっていました。

3Dスキャン技術による点検手法の見直し

こうした課題に対し、秋田県は2025年5月頃、民間企業からのデモンストレーションを機に、3Dスキャン技術の活用に着目。水力発電設備の点検に適用できる可能性を検討し、実証に取り組むこととしました。

本実証では、管内径1.8mの水圧鉄管を有する杉沢発電所を実証場所として選択。実証に最適な3Dデータ密度及びスキャニング方法を検討するスキャン前作業を実施した後、水圧鉄管や導水路の内面における劣化状況を、3Dスキャニングによって取得した点群データとして記録し、その可視化・分析を行いました。具体的には、設備内部をスキャンし、得られたデータをもとに凹凸や変形を可視化し、劣化状況を客観的に把握する仕組みを構築しています。

導管内は急傾斜部や細径部もあるため、スキャン方法については、「人が機器を背負って計測する」方法や、「自走式の装置を用いる」方法等をさまざまに試行しました。また、取得した3Dデータについては、偏差計算による可視化処理を行い、従来の目視では把握しにくかった微細な変化も視覚的に確認できるようにしています。

従来手法との比較による有効性の検証

本実証ではさらに、従来手法による評価と、3Dスキャンによる評価結果を比較することで、その有効性を検証しました。

特に大きな効果を実感したのはコスト面でした。これまで外部委託で1発電所につき1か月かかっていた調査期間は1週間に短縮。これにより、約3,000万円※かかっていたコストも1,000万円程度に削減することが期待できます。調査期間短縮は同時に、抜水による電力損失期間も短縮し、このこともコスト削減への効果が期待できます。

また、評価手法の面でも、従来のように人の経験や主観に依存するのではなく、数値データに基づいて劣化状況を把握できる点が確認できました。これにより、評価のばらつきを抑えつつ、より客観性の高い判断が可能になると考えられます。加えて取得したデータは記録として蓄積されるため、経年変化の把握や将来的な維持管理にも活用できる可能性があります。

【従来手法と比較して期待される効果】
・コスト:約3,000万円以下/1回・1発電所 ⇒1,000万円以下/1回・1発電所に低減
・調査期間:1か月/1回・1発電所 ⇒1週間/1回・1発電所に低減
・損失電力:1か月/1回・1発電所 ⇒1週間/1回・1発電所に低減
・評価精度:技術者の能力・判断等によるバラツキ ⇒3Dデータによる正確性・客観性
・評価期間:1か月/1発電所 ⇒1週間/1発電所に低減
・作業安全面:作業員に危険が伴う ⇒作業員の危険リスクの減少

今後の展開に向けた課題と可能性

本実証では、認識率98.5%という高い数値を打ち出すことができました。しかし一方で、実証を通じていくつかの課題も明らかになりました。最も困難に感じたのは、管内環境にバラツキがあることです。例えば、急傾斜だったり、管内に水や泥が貯まっていたりしてスキャナー台車やUGVの自走が難しいところがありました。一部、ドローンの使用も検討したものの、ドローンが発生させる自身の風により飛行が不安定になるという別の問題も発生しました。それらにより、現時点では完全な自動化には至っておらず、管内のスキャン方法の最適化や運用面での効率化など、検討が必要とされています。

今後は、無人化や長時間稼働を見据えた運用の検討に加え、取得データを活用した予防保全への展開、AIを用いた自動劣化判定など、さらなる高度化をめざす方針です。また水力発電所にとどまらない、土木維持管理全体の効率化への応用、さらにはこの技術を用いた他自治体等への横展開にも期待を寄せています。

今回の取り組みは、点検業務の効率化にとどまらず、設備の状態をデータとして把握し、継続的に管理していくための基盤づくりと位置づけられます。人手による確認を前提としてきた従来の点検から、データを活用した保安へと移行していくうえで、本実証はその可能性を具体的に示すものとなりました。

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