IT技術の進化に伴い、さまざまな分野でデジタル化が加速しています。しかし保安分野は長く巡視点検が基本とされ、人の目・手に拠る管理からの脱却が課題でした。
その状況に風穴を開け、保安分野の効率化・高度化への牽引が期待されるのが、「スマート保安実証支援事業費補助金」です。高度な保安業務のノウハウを持ちながらも、費用の点で新規性・革新性のある技術開発に踏み込めなかった企業や自治体が、この補助金との出会いで得たもの。それは技術開発のブレイクスルーに留まらず、企業の信頼度アップをも生み出し、次のステージへの大きな足掛かりとなっています。
みなし設置者として風力発電所の運営・保守を行うイオスエンジニアリング&サービス株式会社(本社:東京都千代田区代表:須藤 豊)は、補助金を利用し、遠隔技術を用いて風力発電所の現場状況を確認できるシステムの実証を行いました。
このテーマに取り組むにあたり、大きく分けて2つのアクセス困難施設の保守を想定していた、と同社・堀氏は語ります。
「ひとつは、今まさにプロジェクトとしてスタートしつつある洋上風力発電所の保守。点検時の移動は船舶で、天候等に影響されることが想像できるため、本格的な稼働を前に備えておく必要がありました。もうひとつは、災害等によるアクセス困難のケースです。実際に弊社は2024年、管轄する石川県珠洲市の風力発電所が能登半島地震で被災し、長期間アクセス困難な状況に置かれるという経験をしました」(堀氏)。
業界全体が慢性的な人手不足で、常に効率化を求められる中、これらアクセス困難施設に対して遠隔技術を用いた保守は喫緊の課題でした。
今回の補助事業で同社は、遠隔技術を利用した2つの実証実験を行いました。
「固定監視カメラを使った風車内の状態確認」は、アクセス困難時でも、毎月の巡視や半年・1年ごとの目視点検を遠隔で行える技術の確立をめざしています。実証実験では固定監視カメラを8箇所に設置。高精度な画像送信による転送遅延が懸念されましたが、最新のデータ圧縮技術により、リアルタイム監視の手応えが得られました。すべての点検箇所にカメラを設置することが通常点検においては非効率であることも判明。異常時の状況を確認する上では重要なツールであるため、異常検知の自動処理を併せて開発することで、保安力の向上を狙います。
「ボルトの軸力監視による点検の効率化」は、ボルトにスマートセンサーを設置して軸力の数値を遠隔監視し、点検作業等の省力化を図るものです。現在の「風力発電設備の定期点検指針(JEAG)」では、現場で緩みの有無を確認、緩んでいれば締め直し作業が必要と示されているため、実際の軸力に関わらず現場作業の時間がかかっていましたが、遠隔での軸力監視が実現すれば、今後大幅な作業削減と効率化が期待できます。
さらに今回は、これらの実証実験と並行し、狭小タワー内部を確認する「ドローンを使った風車内の状態確認」と部品交換のリードタイムを短縮する「予知保全」の実証を行いました。
遠隔監視を行うにあたって大きなカギを握る通信品質に関しても、実証実験を通して屋外無線通信の有効性を確認。災害等で光ケーブルが断線した際、工事の容易さも考慮すると迅速な通信復旧手段であることが評価できました。
これら技術の当面の目標は、洋上風力発電施設への展開ですが、堀氏は、ボルトの軸力監視技術の開発と並行して定期点検への適用を提案していきたいと語ります。
「ボルトに設置したスマートセンサーでは軸力を測っていますが、現在の定期点検では、ボルトの点検を現場でトルクをかける等で実施しています。この技術が代替手段として実現化するためには実績・検証が必要。軸力確保が数値で示せることにより締め直しで現場に向かう必要がないとなれば、現在膨大な時間を費やしている点検・締め直し作業が0時間にできるかもしれません」(堀氏)。
そしてこの可能性を広げたのも、補助金があったからと堀氏は続けます。
「同様の技術はこれまでにもありましたが、本技術が代替手段として認められない限り、現場作業はなくなりません。ですが補助金を得られたことで、実績をつくり点検方法の見直し・効率化に挑むことができると感じています」(堀氏)。
「自社内で開発予算を獲得するのが難しい企業も多いのでは。補助金利用によりひとつでも達成すれば、開発するプロジェクトの見え方も変わってくるはずです。いつもはできないことにチャレンジできるのは、非常に魅力的だと思います」(堀氏)と、補助金を検討する企業にエールを送りました。