IT技術の進化に伴い、さまざまな分野でデジタル化が加速しています。しかし保安分野は長く巡視点検が基本とされ、人の目・手に拠る管理からの脱却が課題でした。
その状況に風穴を開け、保安分野の効率化・高度化への牽引が期待されるのが、「スマート保安実証支援事業費補助金」です。高度な保安業務のノウハウを持ちながらも、費用の点で新規性・革新性のある技術開発に踏み込めなかった企業や自治体が、この補助金との出会いで得たもの。それは技術開発のブレイクスルーに留まらず、企業の信頼度アップをも生み出し、次のステージへの大きな足掛かりとなっています。
中国地方を基盤に広域展開する総合建設コンサルタント・中電技術コンサルタント株式会社(本社:広島県広島市、代表:森川 繁)は、補助金を利用し、高精度衛星測位と気圧計を利用した作業員の安全監視システムの実証事業を行いました。
電気を取り扱う工事現場や電気設備の定期点検での電気事故防止は長年の課題でした。従来は、作業員が充電箇所等の危険箇所に接触しないよう、事前にミーティングを行い、作業前に危険箇所を旗で掲示していました。しかし旗の掲示箇所を誤るというヒューマンエラーにより、点検対象外の危険箇所に作業員が接近、感電事故が発生。これをきっかけとし、ヒューマンエラー排除の機運がさらに高まり、事故ゼロをめざし作業員の安全を守る、より高度な危険予知システム開発の着手へとつながりました。
今回開発を進めるシステムは、「作業員が充電部との距離が規程以上に近づいた際に警報を発する」というもの。作業する区域の設計図を下敷きに作業・工事状況を鑑みて事前に危険箇所を設定。システムがリアルタイムに作業員の位置情報を把握・表示した上で、危険箇所に接近した場合は、作業員と安全管理者にアラートを送信する、という仕様になっています。
「困難だったのは、常に誤差の少ない測位方法の選定」と語るのは、同社の高橋氏です。「今回のシステム構築は前提として、作業員の位置を常時測位する必要があります。ですが定期点検は数年に1回なので、現場に設備を追加するのではなく、持ち運べる仕様で検討したいと考えていました。衛星測位システムの位置情報に補正位置情報を与えるRTK(Real Time Kinematic)測位方式が高い精度を示し、変電設備などで発生する電気的ノイズによる通信への影響を受けなかったことから採用を決めました」(高橋氏)。
RTK測位方式の採用により、誤差2~3cmという数値が期待できる精度の確保に成功。しかし超高圧変電所(500kV)で実証を重ねた際、衛星からの電波を受けづらい箇所で、平面方向への影響は少ないものの、高さ方向では最大270cmの誤差が発生。腕を伸ばしたら感電の恐れのある範囲に入ってしまう70cm以上の誤差の解消に向け、別のセンサによる補正を検討することになりました。
そこで注目したのが気圧計です。気圧計による高度測定自体は、登山者用のスマートウォッチへの採用などでも例があり期待できました。実際に改めて超高圧変電所で実証を行った際、気圧センサで補正を行うことにより、誤差が常に約±30cm以内という高い精度を得ることに成功しました。
気圧計による補正で測位精度に目途がついたため、本年の実証では、実際に作業員が装着する測位デバイスと、管理者が使用する安全監理アプリケーションの製作に着手しました。測位デバイスは、ヘルメットに設置したシンプルな形状で作業を阻害しないもの。並行して、鉄構や変電設備が密集している、より条件の厳しい変電所での検証や、送電鉄塔や変電所鉄構での昇降作業で追跡確認できるか等の検証を行い、一般送配電事業者に対してデモも実施しました。
「補助金は、開発の加速に寄与してくれている。補助金があったおかげで、製作に着手することができました。当初の研究予算だけでは、仕様を固めるまでで今年度は終わっていたと思います」
この開発を通し、4つの特許も出願中。他社とのアライアンスも視野に入れつつ、より早い社会実装をめざしています。