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技術開発のブレイクスルー、会社の信頼度アップをも生む「スマート保安導入支援事業費補助金」の力

IT技術の進化に伴い、さまざまな分野でデジタル化が加速しています。しかし保安分野は長く巡視点検が基本とされ、人の目・手に拠る管理からの脱却が課題でした。
その状況に風穴を開け、保安分野の効率化・高度化への牽引が期待されるのが、「スマート保安導入支援事業費補助金」です。高度な保安業務のノウハウを持ちながらも、費用の点で新規性・革新性のある技術開発に踏み込めなかった企業や自治体が、この補助金との出会いで得たもの。それは技術開発のブレイクスルーに留まらず、企業の信頼度アップをも生み出し、次のステージへの大きな足掛かりとなっています。

●水力発電所3Dモデルを活用したAGVによる遠隔巡視点検
「NES株式会社、三桜電設株式会社、宮崎県企業局」

NES株式会社(富山県富山市)、三桜電設株式会社(宮崎県延岡市)、宮崎県企業局の3者は共同で補助金を利用し、水力発電の保守点検において、水力発電所3Dモデルを活用したAGVによる遠隔巡視点検の実証事業を行いました。

水力発電事業は、カーボンニュートラル実現の一翼として期待が高まる一方で、次のような課題も抱えています。
ひとつは巡視業務に対する課題です。水力発電所の多くは山間部に位置し、移動に時間を要するうえに長時間移動中の事故リスクも懸念されます。しかし、水車発電機の音や触った際の温度など、数値化されていないヒトの五感に頼る巡視業務は、未だ省略できるレベルに至っていません。
もうひとつは人的課題です。ベテラン世代の退職や入職者数の減少等により、間近に迫る人材不足や高齢化、さらには前述の巡視業務の属人化解消も困難で、技術継承の滞りから将来的な保安力に影響を及ぼすことが予想されます。

これらの問題を解決すべく、水力発電の実証サイト及び保安技術を有し、かつ、当該補助金活用の実績もあった宮崎県企業局が発案。富山県・相ノ又谷水力発電所で遠方監視のシステム開発を担当したNES株式会社と、産業インフラの3D測量・3Dモデリング技術において宮崎県内屈指の企業である三桜電設株式会社に提案し、共同開発を目指したのが今回の事業です。

この事業では、「見える化」をひとつのテーマに掲げ、「五感代替データをAGV(無人搬送車)およびネットワークカメラに自動収集させる」「施設の全容を3Dモデルで作成する」という2つの大きなチャレンジをしました。
3DモデルをAGVの走行ルートおよびネットワークカメラ配置の最適化に活用、自動走行しながら施設内の音や静止画、動画、サーモ画像、360°画像等各種データを取得し、ノウハウを「見える化」しました。
また、施設の全容を模した3Dモデルは、理解にスキルを必要とする図面等の2次元データを平易にし、新任者教育やOJTへの活用、現場調査の省略などといった側面で「見える化」を実現、効率的な技術継承・保安力の向上に繋げています。

実証事業により、年間の現場巡視回数は、異常時で2回(26%)、平常時で12回(50%)の削減が想定でき、保安業務の省力化の見込みがあることが実証されました。
また、異常時、平常時、災害時を含む年間の現場移動時間は48h(48%)の削減が想定でき、削減した時間を他の業務に充てられると大きな効果に期待が寄せられています。

これらの数値想定に加え、見える化の効果も大きい、と宮崎県企業局・大前氏は語ります。「ベテラン職員の経験則で事業が成り立っていたものをデータに置き換えられたことは、技術者全てが同じスキルを共有できるという点で、非常に幅が広がり、大きな収穫となりました」。また補助金に関しても、「地元(宮崎県)企業である三桜電設株式会社にこの補助金を使っていただいたことで、県内企業に補助金活用のメリットをお示しできたのではないか。他の県内企業にも波及すれば業界全体に良い影響を与える。それが自治体の1つの役割でもあるのかなと思っているところ」と続けます。

同事業は今後約1年間の試行運用を経て、2024年度より本格運用へ移行し、ノウハウを蓄積する予定。試行運用では、実証事業で浮き彫りとなった課題や問題点の解決に努めるとともに、各者のネットワークを活用し、全国の公営企業や民間の発電事業者に対して情報発信も行いたいと意気込みを見せています。

●AIを活用したPCS故障予知システム
「RYOKI ENERGY株式会社」

再生可能エネルギーの発電事業を展開するRYOKI ENERGY株式会社(本社:石川県金沢市、代表:北川雅一朗)は補助金を利用し、太陽光発電の保守点検において、AIを活用したPCS(パワーコンディショニグステム)故障予知システムの実証事業を行いました。

「このシステムを企画した時点から、世の中に普及させたいという思いがあった」と同社・西田氏は語ります。自社発電所で使用していたPCSに故障が発生した際、メーカーの修理担当者がすぐに対応できなかったということが開発のきっかけに。同様の課題を解決するソリューションを探したものの見つけられず、それならばと自社での開発に踏み切りました。

当初は費用の関係上、自社内の2~3の施設にデータロガーを設置しデータ取得する予定でしたが、この補助金を知り申請、採択されたおかげで、52箇所に設置することができました。補助金は、データロガーの設計・製造、データロガーの設置、AIシステムの開発、Web UIの開発等に活かされました。

具体的な内容としては、
①PCSにデータロガーを設置、収集したセンサーデータをクラウドサーバーに送信 ➁データをクラウドサーバーでAI解析 ③故障の予兆を検知した場合は、発電事業者等にアラートを送信するというもの。
これらシステムによる常時監視とAIによる故障予知で、想定されるトラブルへの事前対処が可能になりました。突発的な保安業務が削減できるうえに、復旧にかかるリードタイムが確保できることで稼働停止期間を最小化し、発電量の最大化に繋げます。

実証事業では、定期点検から常時監視になることで監視時間が増加(年間8h→8,760h)、導入により故障予兆の見落とし回避率が1,000倍になると想定。また巡回点検は年間80%削減、故障時の突発的な業務負荷は90%削減できると想定しています。

開発当初から展示会出展などにおいて、発電事業者やO&M事業者などの関心も高く、また補助金採択と52箇所設置が大きな実績にもなり、さらなる新規の引き合いを生んでいます。

発電事業を通して同社がめざすのは、「世の中に再生可能エネルギーを増やす」こと。ソリューションの普及は、このミッションに則ったものであり、再生可能エネルギー電源の安定化・最大化という形で社会に寄与したいと考えます。将来的にはPCSメーカーや他事業者とも連携しながらシステムやサービスの質を高め、太陽光発電の保安業務や管理業務のスマート化に貢献する存在をめざしています。


前回の募集ではこのほかにも、バラエティに富んだ内容で多くの申請がありました。
例えば長野県企業局は、「AIを活用した水力発電所運転計画支援システム」開発のため申請。降雨等を考慮した計画決定にAIを用いるシステムで、最適なダムの運用、電力の安定供給をめざしました。また株式会社キューピクル(福岡県福岡市)は「キュービクル保守点検における総合的な自動化システムの構築」を発案。計測・目視点検電子化・報告書作成・電子認証・請求書発行・料金回収等多岐にわたる機能を自動化、常時監視・見える化・警報発報で、点検業務の品質向上と人材不足対策をめざしました。
この補助金を利用した団体はいずれも、「補助金を得たおかげで実証事業を拡大できた」「採択が、会社や開発技術の信頼度アップにつながった」と語ります。

「費用を掛けることで、より良い実証成果を期待できる事業」や「工数や予算を掛けて実証を進めることで、技術開発のブレイクスルーが見込める事業」にこそフィットする、この補助金。保安業務にデジタル技術を活用し新たな技術開発や実証を試みたい事業者様や、資金面の制約から技術開発に踏み込めない等の事業者様は、ぜひチャレンジしてみてください。

執筆:株式会社グロップ 平田有紀

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